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<患者の権利関係>
岩岡秀明(医師)
(2001.05.16)
「セカンド・オピニオン」(以下SOと略す。)とは「病気の診断や治療方針に関する主治医以外の第三者医師の意見」である。
近年わが国でも、「インフォームド・コンセント」さらに進んで「インフォームド・ディシジョン」と呼ばれる「患者自身が十分な説明に基づき自分自身で治療法等を決定する」という考え方が急速に普及するにつれて、SOの重要性もクローズ・アップされてきたと言えよう。
インフォームド・コンセントの落とし穴、または注意点として挙げられるのは、医師が自分の希望する治療法を患者に選択させたい場合には、どうしてもその説明にバイアスがかかってしまう、という点であろう。つまり医師が望む選択肢に患者を誘導するような「説明と同意」を得ることが、ある程度は可能だと言える。
以下、具体例を挙げて詳しく説明する。
1)大学病院や大病院では、まだ十分評価の定まらない先端的な医療・実験的な医療を標準的な医療よりも優先して施行したがる医師がいること。その場合、医師が自分の施行したい方法のメリットを実際よりも強調して説明することが考えられる。
例)腹腔鏡や胸腔鏡を利用した手術は、最近急速に普及しているが、その適応はまだ限られ、術者も通常手術の豊富な経験例数を有するという条件が必要である。
まだ実験段階の疾患に対する腹腔鏡手術を、さも安全で簡単な手術かのように説明してしまう。
2)医師自身またはその医療チームが得意とする治療法のメリットを強調し、得意でない治療法またはその医療チームでは施行出来ない治療法についてはそのデメリットを強調して説明する場合があること。
例) 狭心症で冠動脈造影を受けた結果、内科的な冠動脈拡張術(いわゆる風船療法等)を選択するか、外科的な冠動脈バイパス術とするかの説明の際に、経験豊富な循環器内科医と心臓外科医が揃った施設ならば問題がないが、一方しかいない場合(通常は優秀な心臓外科医がいない施設のほうが多い)、本来はバイパス手術の適応であっても転院を勧めずに、どうしても自分の専門とする内科的治療法にこだわりその利点のみを強調して説明してしまう場合もみられる。
参考資料) 「わが国で年間100例以上心臓手術を施行している施設名一覧」: 「心臓手術 受けるコツは?」(http://www.yomiuri.co.jp/iryou/hop/index.htm)
これらは、いずれも医師と患者間の「情報、知識の非対称性」に起因する問題である。
このような場合に備えて、患者としてはどのように対応すればよいであろうか?大きく分けて以下の2つの方法が考えられる。
1)普段から積極的に自分の病気に関する医学的知識や「標準的な治療法」(各学会で作成した診療ガイドライン等)、専門医が勤務している医療機関の情報等の入手に努力することである。
現在はインターネットを通じて世界中の最新の医療情報が誰でも簡単に入手可能となっているので、是非積極的にインターネットを活用すべきであろう。
以下いくつか有用と思われるサイトを挙げてみる。
Medipro・・・医師向けのサイトだが各領域の最新の医学情報が得られる。(一部有料)
http://www.so-net.ne.jp/medipro/guest/index.html
MedWave・・・日経BP社の総合医療情報サイト。
http://medwave.nikkeibp.co.jp/MED/
診療ガイドライン(東邦大学)・・・日本、海外の主要な診療ガイドラインが疾患別に掲載されている。
http://www.med.toho-u.ac.jp/library/guideline/guide.htm
MIネット・セカンドオピニオン推進部会のサイト・・・各学会の専門医、認定施設情報等を掲載 。
http://www.mi-net.org/so/index.html
これらのサイトで検索し、患者自身が自分の病気に関する医学的知識や情報を持てば、前述のような場合でも、その治療法の成績、術者の経験数とその実績等に関して主治医に積極的な質問が可能であろう。
2)SOを求めることである。患者が自分で医療情報を入手するとは言っても、やはり医学に関して素人の患者には限界もあろう。そこで、自分の主治医から受けた説明や治療方針に疑問が残ったり不安がある場合には、第三者の専門医の診療を受けその医師の意見を聞いた上で決定することが重要となる。
SOを受ける際に重要なことは、基本的には「現在の主治医の元で治療を継続する」という前提で第三者の専門医からの意見を聞くという姿勢であろう。はじめから主治医に対して不信や不満が強い場合には、転院・転医を前提とした受診となる訳であり、これはSOとは異なる。
またSOを依頼された医師もこの点に配慮した上で医学的な意見を述べることが肝要と思われる。明らかに医学的に間違っていると判断される場合は別として、いたずらな前医批判は慎むべきであろう。
患者側も医師側も、この点を十分に理解した上でSOを進めていかないと患者・医師間の信頼関係が損なわれ無用なトラブルを生む恐れがある。
また、主治医もこの点を理解して、患者から「先生の診療に不信を持っている訳ではないのですが、念のためSOを受けたいのですが?」と言われた際に過敏に反応することなく「どうぞお受け下さい。検査データや写真等をお貸ししますよ。」という対応をすることが望ましい。
SOをスムーズに受けるための方便として、現時点では患者としては以下のような言い方も考えられよう。
「私は先生のご提案通りにしたいのですが、親戚の者が、念のためにSOを得るよう
にとしつこく言いますので、検査結果等をお借りできますでしょうか?」
「セカンド・オピニオンを推進させる会」(代表・中村康生)という団体が、関東、中部、関西地方の患者を対象として各科の専門医を紹介している。(有料)
http://mediazone.tcp-net.ad.jp/Life/index2.html
『この会の中村代表は「会で紹介した患者さんの9割は、2人の医師の意見は同じでしたが、前以上に主治医との信頼関係が深まります。」と話している。』(朝日新聞2001年5月9日朝刊くらし欄「セカンドオピニオン」から引用。)
また最近、Eメールや掲示板によるネット上での医療相談のサイトも多数みられるが、これらはあくまで一般的な病気の知識を得るための参考意見にとどまると思われる。すなわち、実際に患者が医師の診療を受け、各種検査成績や画像診断等を見た上でないと医師も適切なSOを提供出来ないと考えたほうがよい。たとえ同じ病気であっても、その進行度、患者の年齢、全身状態、社会的条件等により治療法が異なることが臨床上あり得るからである。
では、主治医の意見とSOが異なる場合には、患者はどうすればよいであろうか?この場合は、サード・オピニオンを聞くことになるが、SOを受けた医師から更に別の専門医を紹介してもらうか、普段から信頼出来る「かかりつけ医」がいる場合にはたとえ専門外ではあってもその医師の意見を聞いてみるという方法が考えられよう。
なお、過疎地や地方では医療機関が限られるためSOが得られにくいという意見もあるが、急性疾患は別として、がんや心臓疾患等、患者にとって極めて重大な疾患の場合、飛行機や新幹線等を利用すれば中核都市まで数時間で移動可能という日本の交通アクセスを考えればあまり問題にはならないと思われる。
以上のようにインフォームド・コンセントとSOは、いわば「車の両輪」であり、今後ますますSOが重要になると考えられるが、日本での普及はまだこれからの感も強い。その理由を考えてみる。
1)医師側の理解が不十分で、患者の信頼を失ったと誤解してしまい協力を拒む。
2)患者側も適切な判断が出来ず、いわゆる「ドクター・ショッピング」となってしまう場合。
3)そもそもどの医師、医療機関にSOを求めればよいのか分からない。
などが考えられよう。
1)がSOの普及を阻む最も大きな要因と思われる。
これらを解決していくためには、各施設毎、医師毎の手術例数や治療成績等の「医療情報の開示」を進めていくことと共に、医師、患者の双方がSOという考え方になじんでいくことが重要であろう。
近い将来、主治医のほうから患者に「SOを希望されますか」と問いかけ、希望する患者には、検査データ等のコピーはもちろんのこと、専門医のリストも提示する状況となることが望ましいと考える。