webzine 医療改善のために
第3号(2001年12月9日発行)
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<東京都勤労福祉協会セミナーから>

患者のための14条  

栗岡 幹英(社会学研究者)
(2001.11.25)  

 次の文章は、第5回の栗岡の講演の要旨です。

1.日本の医療の現状

 医療評価の視点として、コスト(費用)・アクセス(かかりやすさ)・クォリティ(質)の三つが挙げられることがある。この三者をすべて満たすことが望ましいが、実際には難しい。米国では費用がかさみ、貧しい人にとってはアクセスやクォリティも保証されない。イギリスでは、診療や手術の待ち時間が社会問題となっており、アクセスの悪さが指摘されている。

 日本では、地域による格差などの問題があるが、国民皆保険制度によって低い保険料で誰もが一定水準の医療を受けられる状況を作り上げてきた。また、一部の大病院を受診するには割り増しの初診料が科せられたり、紹介状を必要とするものの、病気になった時にはすぐに診療を受けられる体制も整えられた。老人医療費の高騰で大幅な見直しが求められているとはいえ、これまでの日本の医療は、コストとアクセスの点では評価できるものであった。

 しかし、日本の場合、高度な先端医療について他の先進国に引けを取らないようにみえるが、医療の質については大きな問題がある。つまり、続発する医療事故に見るように、安心して医療を受けることができないのである。

2.医療の質の問題

 米国では、大規模な二つの調査から年間4万4千人から9万8千人が医療事故で死亡していると推定される、との報告書が公表され、話題となった(『人は誰でも間違える』日本評論社)。MIネットの代表世話人藤田康幸弁護士は、この結果を単純に日本に当てはめるなら、年間に3万6千人から1万7千人が医療事故で死亡していることになる、と指摘する(藤田サイト)。米国での厳しい医療事故管理を考えれば、日本ではもっと多い可能性もあるだろう。

 NHKが続発する医療事故の問題を取り上げた時には、日本では同種の調査がないので医療事故訴訟の数から推定するほかないが、2000年の医療過誤訴訟が800件弱に達し、平成1990年の3倍に達していると指摘した。医療事故は顕在化しにくいし、実際に提訴することはきわめて難しいので、訴訟になった事件は氷山の一角に過ぎない。

 インシデント・レポートを制度化したり、診療報酬制度にカウントされないリスクマネージャーを置いたりと、努力をしている病院もあるが、まだ多数派とはいえない。

3.医療社会学の見方

 医療社会学においては、生活の中で医療がコントロールする場面が増大する「医療化」の現象が指摘され、とりわけそこでは専門家による支配が行われていると指摘されてきた。近代西欧が主導してきた生物医学に対する過度の信頼は、患者が病気の治療について医師に依存するパターナリズムをもたらしたのである。

 このパターナリズムや「お任せ医療」に対する反省から、インフォームド・コンセントや自己決定を重んじる患者中心の医療への転換が強く求められている。このことは、医療の密室性をなくし、医療事故防止へのインセンティブを高めるうえでも重要である。

4.患者の権利と市民の行動

 MIネットは、患者の権利を明確にした世界医師会の「リスボン宣言」を活動の基盤に置いている。安全で良質な医療を受ける権利は、患者中心の医療の中心的な要求である。しかし、この要求は、誰かが満たしてくれる、というものではない。患者・市民が診断治療の現場を含むさまざまな場で医療改善をめざす行動をとることが必要だ。

5.患者のための14条

 MIネットでは、患者が受診するさいの心得として、「患者のための14条」を策定した。この基準を念頭に受診することは、良い医療を受けるためばかりでなく、医療事故に遭わないためにも有効だ。そして、一人一人の患者が良質で安全な医療を求めてこのように行動することは、医療全体の底上げにつながるだろう。

 MIネットの活動に参加し、あるいはさまざまなかたちで支援していただくこともありがたいことだが、患者・市民の皆さんがそれぞれに良い医療を求めて行動することが、医療改善の鍵になる。