◎裁判所・年月日 福島地方裁判所白河支部昭和58年3月30日判決
◎事件名 白河筋短縮症訴訟第一審判決(肯定例)
◎要旨
1 乳幼児期に大腿部へ頻回筋肉注射を受けたことにより、いわゆる大腿四頭筋短縮症にり患したとする(昭和44年〜46年)患児及びその両親らからの損害賠償請求につき、製薬会社には、筋肉注射剤を製造・販売するに際し、結果発生予見義務違反及び結果発生回避義務違反の各過失を肯定したが、国には、筋肉注射剤の製造承認をするに際し、製薬会社に対し、その筋組織障害性に関する使用上の指示・警告をなすべき義務を課して製造承認すべき義務及び右製造承認後、本件最終注射年月日までに筋肉注射剤の筋組織障害性を公表し、製薬会社に対し右同様の指示・警告をなさせるべき義務並びに医師法二四条の二に基づき医師に対し筋肉注射の副作用を警告し、その使用方法につき適切な指示をすべき義務はなかつたとして、国の過失責任を否定した。
2 薬事法の目的及び性格
薬事法は、医薬品等を供給する者の営業の自由に対し法的制限を加えることにより、公衆衛生に関する不安を除去して国民の健康の維持・増進に寄与しようとする取締法規たる基本的性格を有する。
3 医薬品の安全性確保に関する厚生大臣の権限
厚生大臣は、医薬品の日本薬局方への収載又はこれ以外の医薬品の製造承認に当たつて、事例に応じた適宜な方法を用いて医薬品の安全性を審査する権限を有し、また、審査の結果、医薬品の安全性に問題があることが判明し、その有用性に疑いを生じた場合には、日本薬局方への収載を見合わせ、製造承認の全部又は一部を拒否し、又は申請者に使用上の指示・警告をなすべき義務を課して製造承認(負担付承認)するなど、適切な措置を講ずる権限を有するとともに、条理上、医薬品について日本薬局方収載ないし製造承認の後も、その安全性に関する追跡調査をし、その有用性を再評価する権限を有し、その再評価の内容に応じて、場合により、日本薬局方への収載を削除し、製造承認の全部若しくは一部を撤回し、又は製造業者等に一時販売を中止させ若しくは使用上の指示・警告をなさしめるなど適切な措置を講ずる権限を有する。
4 医薬品の安全性確保に関する厚生大臣の権限不行使が法律上の義務違反となる要件
医薬品の安全性確保に関する厚生大臣の諸権限を行使するか否かは、本来同大臣の自由裁量に属するが、日本薬局方収載若しくは製造承認の際又はその後において、(1)医薬品の副作用等の有害な作用によつて国民の生命・健康を侵害する差し迫つた危険のあること、(2)厚生大臣において右危険の切迫を知り又はこれを知り得べかりし状況にあること、(3)厚生大臣において安全性確保に関する権限を行使すれば、有効適切な危険回避の措置を講ずることができること、の要件が存在するときは、厚生大臣は右権限を行使すべき法律上の義務を負い、これをけ怠するときは違法となる。
5 医師法二四条の二に基づく厚生大臣の指示権を行使し得る要件
医師法二四条の二に基づく指示権について、(1)医療行為の結果もたらされる国民多数の生命・健康に対する危害であること、(2)その危害が医療行為の目的たる効果に比して大きく、しかも放置できないほど重大なものであること、(3)そのような危害が現に発生し又はその発生の危険が切迫していること、の要件を充足する場合であつて、かつ、(4)伝染病予防法等他の法令によつて適当な措置が講ぜられていない場合であること、(5)多くの医師が当該危害の発生を防止するため十分な対策を講じていない場合であること、の要件を満たす場合に、厚生大臣は右指示権を行使し得る。
6 厚生大臣が医師法二四条の二に基づく指示をしなかつたことが法律上の義務違反となる要件
厚生大臣が医師法二四条の二に基づく指示を発すべきか否かは同大臣の自由な裁量に属するが、右指示権を行使しないならば、その権限を与えた意義が失われるような著しく不合理な事態となる場合に、例外的に、右指示権を行使すべき法律上の義務を負う。
◎コメント
筋短縮症発生についての国の責任につき、薬事法、医師法に基づいての各責任をいずれも極めて限定的に解し、結論としても否定したものである。
◎出典 判タ493号166頁、判時1075号28頁