◎裁判所・年月日 東京地方裁判所昭和60年3月27日判決
◎事件名 山梨筋短縮症訴訟第一審判決(否定例)
◎要旨
1 医薬品の安全性確保に関する厚生大臣の権限と責務
厚生大臣は、昭和二三年法律第一九七号の薬事法及び同三五年法律第一四五号の薬事法の下にあつても、医薬品の製造承認(許可)時においてはもとより、日本薬局方収載後又は製造承認(許可)後においても、その安全性確保のため、副作用等の有害作用の追跡調査をなし、各時点における医学・薬学の最高の学問水準に照らして当該医薬品の有効性及び安全性を比較考量の上、その有用性を判定して、製造承認(許可)の全部又は一部の拒否、使用上の指示、警告をなすべき義務付きの製造承認(許可)、製造承認(許可)全部又は一部の取消し(撤回)等適切な措置を講ずべき権限と責務(義務)を有する。
2 医薬品の安全性確保に関する厚生大臣の権限不行使が国家賠償法上違法となる場合
医薬品の安全性確保に関する厚生大臣の権限不行使が国家賠償法一条一項にいう違法と評価されるのは、(1)国民の生命、身体、健康に対する差し迫つた具体的な危険発生の予見可能性があり、(2)規制権を行使することにより、右危険防止のための有効適切な措置が採り得て、右結果の発生を回避することが可能であり、しかも、(3)右規制権の行使が社会的に要請される場合であつて、その不行使が医薬品の製造承認(許可)及びその取消し等について、その事柄の性質上厚生大臣に認められる裁量の範囲を超え、著しく合理性を欠くと認められる場合に限られる。
3 いわゆる筋拘縮症事件につき(昭和40年代後半)、国(厚生大臣)に医薬品の安全性確保義務違反がないとされた。
4 医師法二四条の二に基づく厚生大臣の指示権の不行使が国家賠償法上違法となる場合
厚生大臣が医師法二四条の二に基づく指示権の不行使の違法を問われるのは、(1)医師の医療行為の結果、その医療目的たる効果に比較して放置し得ない重大な被害が国民の生命、身体に及ぼされる急迫な危険が存在する場合であつて、(2)他の医療関係法令による適切な措置も、医師の自主的な努力による対策も講じられておらず、(3)しかも、画一的、具体的指示により被害発生の防止が可能であるときに限られる。
5 いわゆる筋拘縮症事件につき、国(厚生大臣)に医療行為の適正を確保すべき義務違反がない。
◎コメント
筋短縮症発生についての国の責任につき、薬事法、医師法に基づいての各責任をいずれも狭くとらえ、結論としても否定したものである。
◎出典 判タ555号121頁、判時1148号3頁