◎裁判所・年月日 名古屋地方裁判所昭和60年5月28日判決
◎事件名 名古屋筋短縮症訴訟第一審判決(否定例)
◎要旨
1 医薬品の安全性確保に関する厚生大臣の義務の内容と損害賠償責任について
厚生大臣としては、医薬品の製造許可(承認)時及び何らかの契機で医薬品の副作用を知り、あるいは通常の行政事務遂行の過程で容易にこれを知ることができた時には、その時点における国の有する最高水準の医学薬学上の知見及び調査能力を駆使して医薬品の副作用の有無やその内容を調査確認し、その程度と当該医薬品の有効性を比較検討の上、国民に対して被害の及ぶことを避けるために適切な措置を採るべく、そして、厚生大臣の介入がなければ、被害の回避が困難であると考えられる緊迫した事態においては、その不作為が当該医薬品を使用して被害を受けた国民に対する損害賠償責任に帰結することがある。
2 筋肉注射により大腿四頭筋拘縮症にり患したとする(昭和48年頃)乳幼児及びその両親からの損害賠償請求について、国(厚生大臣)には、筋肉注射による本症の発症につき予見可能性がなく、医薬品の安全性確保義務違反がないとされた。
3 医師法二四条の二に基づく厚生大臣の指示権の不行使が国家賠償法上違法となる場合
厚生大臣が医師法二四条の二に基づく指示権を行使するか否かは、幅広い裁量にゆだねられているとともに、一定の手続的な制約の下にあるから、これが国家賠償法上違法となるのはその不作為が裁量の範囲を著しく逸脱した場合であり、最小限度、国民多数の生命や健康に対する危害が生ずる可能性が極めて大きく、これを放置することができない緊急の事態にあり、このことを厚生大臣が認識していること、そのような事態を排除するには医師に対する指示が最善の行政手段であることの要件が備わる場合であることを必要とする。
4 筋肉注射により大腿拘縮症にり患して損害を被つたとする乳幼児及びその両親からの損害賠償請求事件について、国(厚生大臣)に医師法二四条の二の医療に関する指示義務違反がないとされた。
◎コメント
筋短縮症発生についての国の責任につき、薬事法、医師法に基づいての各責任をいずれも否定したものである。
◎出典 判タ563号202頁、判時1155号33頁