医療改善ネットワーク(MIネット) 趣意書

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 日本の医療の現状には多くの問題点が指摘されています。

 人は誰しも、自分がどのような生き方をするか、どのようなライフスタイルを採用するかなどについて、(他人の権利を侵害しない限り)自分で決定する権利(自己決定権)があります。
 医療というサービスは、サービスの受け手(消費者)である患者の利益に資することを目的としている上に、サービスの内容や結果が患者の生き方やライフスタイルに影響する以上、患者の自己決定権が尊重されるべきでしょう。
 患者の自己決定権を尊重するためには、診断・治療・医療機関についての情報が十分に提供された上で各種の選択肢の中から患者が主体的に選択をする必要があります。
 このような意味で、インフォームド・コンセントないしインフォームド・チョイス、医療情報の開示、最善の医療を受けるための転医などが「患者の権利」の内容とされる必要があります。

 世界的にみて、「患者の権利」が広く進展してきています。
 さまざまな動きがありましたが、例えば、世界医師会(WMA)は、1981年に「患者の権利に関するリスボン宣言」を決議し、それを1995年に改訂しました。報道によれば、日本医師会はこの改訂の際に世界で唯一賛成しなかったそうで、非常に残念なことです。また、世界保健機関(WHO)ヨーロッパ会議は1994年に「ヨーロッパにおける患者の権利の促進に関する宣言」を出しています。なお、医療機関の団体としては、アメリカ病院協会が1973年という早い時期に「患者の権利章典」を発表しています。

(注)藤田康幸「患者の権利の確立に向けての主な動き」
https://www.noto.or.jp/psnl/anemone/aki/siryou/kakuritu_0.html

(注)世界医師会(WMA)「患者の権利に関するリスボン宣言」(1981年、改訂1995年)
https://www.baobab.or.jp/~michio/961116.html
https://www6.nsk.ne.jp/~mucha-t/aki/siryou/lisbon_0.html
 この宣言では、「以下の宣言は、医療専門家が確認し促進する患者の基本的権利の一部を表すものである。保健医療にかかわる医師その他の個人もしくは団体は、これらの権利を認容し擁護していく上で共同の責任を担っている。医師は、立法、政府の行為あるいはその他の行政機関や組織が患者に対してこれらの権利を否定する場合にはいつでも、これらの権利を保証しもしくは回復するために適切な手段を講じなければならない」として、「良質の医療を受ける権利」「選択の自由の権利」「自己決定の権利」などについて規定している。

 なお、以下の報道を参照。
★日本経済新聞社『病める医療 ー現場から問う危機の実態ー』(1997年)24頁
「 レセプト開示は、こうした運動が実を結んだ結果ともいえる。しかし、壁はまだ厚い。世界医師会は九五年九月の総会で、「患者の権利に関する改正リスボン宣言」を採択した。改正宣言は患者が質の高い医療を受けるため医療機関を選ぶ自由や、カルテなど本人に関するあらゆる医療情報を受け取る権利を具体的に明記している。
 しかし、大多数が賛成した改正宣言で、日本医師会は唯一、棄権した。「内容的には特に問題はないが、宣言としては長文である」ことを理由にしているが、関係者の一人は「実質的な反対だった」
と打ち明ける。
 すでに米国や英国などは、法律で医療情報の公開・開示を義務づけており、医師側が情報を隠すことは許されない。その背景には医療倫理が確立していることがある。」
★朝日新聞1996年9月3日付朝刊・家庭面
「医療情報、公開へ風穴」「「開示は当然」各国で定着」の抜粋
「日本医師会は棄権」
「 昨年秋、インドネシアのバリ島で開かれた世界医師会総会で、「患者の権利に関するリスボン宣言」が改正され「情報に対する権利」の項目が新設された。
 冒頭には「患者は自分のあらゆる医療記録に記された自分についての情報の提供をうける」とあり、情報提供の第一の方法として医療記録の開示を挙げたのが注目される。
 改正の序文で、「医師はこれらの権利を保障し、回復するために適切な手段を講じなくてはならない」などとうたっている。この決議に、日本の医師会は「反対ではないが、宣言の形式としてふさわしくない」として棄権した。」

(注)アメリカ病院協会「患者の権利章典」(1973年)
https://www.iijnet.or.jp/cancer/58.html

 日本でも、さまざまな動きがありました。
 例えば、1984年に、患者の権利宣言全国起草委員会が「患者の権利宣言案」を、1987年に、九州・山口医療問題研究会が「患者の権利宣言」を、1991年に、患者の権利法をつくる会が「患者の諸権利を定める法律要綱案」(1993年に改訂)を、1992年に、日本弁護士連合会が「患者の権利の確立に関する宣言」を発表しました。
 医療機関の団体によるものとしては、1991年に、日本生協連医療部会(医療生協)が「患者の権利章典」を、1994年に、日本病院会が「『インフォームド・コンセント』について ー病院の基本姿勢ー ご来院の皆様へ」を発表しました。
 なお、日本医師会が患者の権利に関する宣言等を出していないと思われます。
 最近では、薬害エイズの真相究明と再発防止策を検討してきた総合研究開発機構(NIRA、官民共同出資のシンクタンク)の「薬害等再発防止システムに関する研究会」が、研究報告「薬害等再発防止システムに関する研究」(1998年)をまとめ、「患者中心の医療を確立するべきである。このため、特に厚生省は中心となって「患者の権利に関する法律(仮称)」を制定する一方、医師の義務・責任も法制度上で明確にするとともに、医療政策に患者の知見や意向が十分反映されるように制度改革を図るべきである。」という提言を行いました。

(注)藤田康幸「患者の権利の確立に向けての主な動き」
https://www6.nsk.ne.jp/~mucha-t/aki/siryou/_kenri_0.html

(注)患者の権利法をつくる会「患者の諸権利を定める法律要綱案」
https://www02.so-net.ne.jp/~kenriho/framepage.html

(注) 薬害等再発防止システムに関する研究会「薬害等再発防止システムに関する研究」(1998年)
https://www.nira.go.jp/newsj/nirarepo/yakuga2/index.html

(注)日本生協連医療部会(医療生協)の「患者の権利章典」(1991年)
https://www.comminet.or.jp/people/dansuke/sansyokukai/kenri.html

(注)日本病院会「『インフォームド・コンセント』について ー病院の基本姿勢ー ご来院の皆様へ」
https://www.hospital.or.jp/informed/informed2.html

 一部の医療機関・医療従事者等(以下、「医療機関等」ともいいます。)は「患者の権利」を十分に尊重しようと懸命に努力していると思いますが、全体的にはそのような医療機関等は少数だと思います。
 そして、医療サービスの受け手は、医療機関等の選択にあたり、「患者の権利」を十分に尊重する医療機関等かどうかについての情報の入手が困難な状況です。情報が不足しているままでは、医療サービスの市場の中で市場原理が働かず、「患者の権利」を十分に尊重しない医療機関等が簡単には駆逐されていきません。
 その意味で、医療機関等の選択にあたり有益な情報を市民が入手しやすいようにすることが重要だと考えています。

 また、患者の利益が最も害されるものとして、医療事故があります。
 発生する医療事故の数は減少していないと思われ(正確で詳しい統計は存在しません。そのこと自体にも大きな問題があります。例えば、交通事故や労災事故などの数はきちんと調査がされています。)、医療事故の救済は迅速かつ適正に行われていないと思います。
 また、発生した医療事故から学びつつ、医療事故を予防する努力が十分には行われていない現状です。

 医療サービスの受け手は、医療機関に現在かかっている患者だけではありません。すべての人々は潜在的患者であり、医療サービスの適正さは市民全員にとっての課題です。そして、医療従事者も医療サービスの受け手になります(例えば、医療従事者自身が、また医療従事者の家族等が医療事故の被害者になる事例もあります。)。

(注)例えば、小笠原一夫「医者が患者家族になったとき 」医療記録の開示をすすめる医師の会NEWS LETTER第7号 1998.6.10
https://www.reference.co.jp/karute-k/edit7.html
を参照。

 そして、医療事故が発生する場合も、そうではない場合も含めて、医療サービスの受け手(患者、潜在的患者としての市民全員)の自己決定権、インフォームド・コンセント、最善の医療を受ける権利などが十分に保障されている状況とは言えないと思います。

 私たちは、WMA(世界医師会)「患者の権利に関するリスボン宣言」(1995年改訂)、WHO(世界保健機関)ヨーロッパ会議「ヨーロッパにおける患者の権利の促進に関する宣言」(1994年)など、「患者の権利」についての国際的水準を踏まえ、日本の医療においても「患者の権利」を基本として医療の改善が進められることが必要だと考えております。

 そのためには、幅広い市民が、協力しあって、それぞれ自分ができることをしていくという形で医療の改善に取り組んでいくことが有益と考えました。
 医療の改善のために、法律や医療の専門家はもちろんのこと、法律や医療以外の専門家や職種の人々もそれぞれの知識・経験等を生かして幅広く協力しあっていけるし、協力しあっていくべきだと考えております。

 そこで、このたび、私たちは、「患者の権利」を基本にして医療の改善を図るため「医療改善ネットワーク」(略称:MIネット)を結成します。

 市民運動ですから、十分な人的・物的基盤を確保できないかと思いますが、できることから少しずつ行っていきたいと思います。そして、インターネットが市民運動にとって非常に有益であることを考え、インターネットを最大限に活用していきたいと思っています。

 医療の改善を願う多くの人々が「医療改善ネットワーク」の趣旨に賛同され、できるかぎり参加・協力等をしていただくようお願いします。

   1998年11月1日

        「医療改善ネットワーク」呼びかけ人・賛同者一同