科学技術会議・生命倫理委員会・ヒトゲノム研究小委員会
ヒトゲノム研究に関する基本原則(案)
https://www.sta.go.jp/shimon/cst/rinri/genomu1/ko1.htm
についての医療改善ネットワーク(MIネット)の意見書



               2000(平成12)年5月6日

科学技術庁 研究開発局 生命倫理・安全対策室
「ヒトゲノム研究基本原則(案)」ご意見募集担当 殿

       ヒトゲノム研究基本原則(案)に関する意見書

 2000(平成12)年4月11日付にて貴庁研究開発局長名で意見を求められました標記基本原則(案)に対する当ネットワークの見解は下記のとおりであります。これらの点が十分考慮され、適切で実効性のある基本原則が作成されることを要望致します。
 なお、当ネットワークは、患者の権利を基本にして医療の改善をめざす市民団体であり、現在の会員数は約220名(法律関係者、医療関係者、ジャーナリストなど様々の職業の者が参加しております。)です。詳しくは、
https://www.mi-net.org/
をご覧いただければ幸いです。

 そのほか、「意見提出用紙」の記載欄との関係では、会員は、
1.年齢
  3.20才代 ないし 8.70才以上
2.性別
  1.男 2.女
3.職業
  1.学生 ないし 5.その他(各種)
4.氏名
  以下のとおり
5.勤務先
  なし
6.連絡先
  以下のとおり
です。

            医療改善ネットワーク (MI-Net:エムアイネット)
              代表世話人 藤 田 康 幸
            (連絡先 〒102-0083 東京都千代田区麹町6-6-1 麹町松尾ビル5階
                 プライム法律事務所内
                  TEL 03-3221-7251  FAX 03-3221-7257  )
             E-mail:info@mi-net.org

       記

基本的考え方について


 「科学研究の自由」を「基本的人権の中核」というのなら、「自己に関する情報に対するコントロール権」も「基本的人権」としてきちんと把握しておくべきである。この権利は個人の人格的生存に不可欠な憲法上の基本権として認知されつつあるが、ヒトの遺伝子や臓器あるいは血液その他の物理的要素はいずれも身体の一部であり、所有権の対象となることも考えると、ヒトゲノム研究においては「自己情報コントロール権」は民法上の権利としても尊重されるべきである。
 更にいうなら、このような「自己情報コントロール権」あるいは「プライバシー権」は研究の自由よりも優先されるべきものであり、研究の自由はプライバシー権を最大限尊重した上で認められるべきであると考える。
 こうした点を「基本的考え方」の中に明記すべきであろう。


 「遺伝子診断および治療に関しては別途国の指針が定められる必要がある。」というが、それはどこでいつ頃までに作成されようとしているのか。
 ヒトゲノムに関する研究は診断・治療といった臨床的な面とオーバーラップする場合もありうると思われるが、そのようなケースに十分に対処するにはこの基本原則だけでは不十分と思われる。現在厚生省が検討している「遺伝子解析研究に付随する倫理問題に対するための指針」も主に研究に関するもので臨床的指針ではないようである。

第一について

 「ヒトゲノムは、人類の遺産である。」という表現は適切とは思えない。
 確かにゲノムの中には遺産ともいうべき情報が少なからず含まれているのかもしれないが、「人類の遺産」というと、ゲノムは人類の共有物とみなされ、個人情報保護と相容れないという議論が出てくるおそれがある。この一文(第一の第1項)は削除すべきであろう。

第四について

 「血縁者」、「家族」については、定義を明確にし範囲を明確にすることが望ましい。簡単ではない面があるが、それでも、この案では不明確すぎるであろう。
 なお、第十五にも関係する。

第五について

 「説明」は、重要事項を記載した文書を交付して行うべきである。「研究の目的、方法・・・」などの説明すべき事項は、この原則の本文の中に明記すべきである。
 なお、説明文書は読みやすく、分かりやすいものでなければならない。保険契約書や金融機関のクレジット契約書にままみられるような虫眼鏡を使わないと読みづらいような細かい活字がぎっしり詰まったような説明文書ではインフォームドコンセントが形骸化するおそれがある。

第七について
 表題が適切ではないと思われる。この表題をつけて「インフォームドコンセントは・・・研究に最も適切な方法であたえられねばならない」というと、研究の便宜や省力化のためにインフォームドコンセントの取得をないがしろにする根拠として悪用されるおそれがある。
 解説の部分ではそういう解釈を戒めているが、倫理委員会がよほどしっかりしていなければ、十分なインフォームド・コンセントを回避するための抜け道となるおそれがある。そういう懸念を解消するためにも、表題を、更には本文の表現も改めるべきであろう。

第八について


 第1項の解説の第2段落中の「可能であれば」は本文との関係では不要と思われる。


 第1項(ロ)の「その時点において予想される具体的研究目的を明らかにしつつ」の部分は、実際の研究が説明時に予想されたものと食い違う場合は当該インフォームドコンセントを無効とすることを明記しておく必要があろう。


 第2項の解説の第2段落は納得しがたい。
 本文は匿名化と連結不可能性の確保を前提としているのに、それらが確保されない場合にインフォームド・コンセント手続を簡略化できるとする解説は不当である。また、「追跡調査を要するもの」は厳格なインフォームド・コンセントを要件とすべきである。


 表題の中の「例外」との表現は第1項の内容にそぐわないと思われる。第1項はインフォームド・コンセントの例外を定める趣旨ではないと思われる。包括的同意を与えるからには、より一層厳重なインフォームド・コンセントが必要になるはずである。その意味では「例外」というよりは、厳格化を強調する表題とすべきであり、簡略化を趣旨とすると思われる第2項とは区別して項目立てする方が適切であろう。

第九について

 第2項は、倫理委員会の判断次第で、新たな同意を経ずして既提供者の同意の範囲を超える使用を認める余地を残している。このような特例措置が必要な場合もありうるかもしれないが、それを認めるためのハードルはもっと高くしておくべきであろう。提供者の意思確認が可能な場合や、提供者との連結可能性がある使用については新たな同意が必要と明記すべきであろう。

第十一について

 「研究機関」、「研究者」、「研究に関与する者」の範囲とそれらの相互関係が明確ではない。例えば、指揮命令関係等が存在しない場合の取り扱いはどうなるのか、研究者が研究機関のコントロールなく研究する場合は認めない前提か、などの点が明らかではない。

第十二について

 「正当な保証または賠償」といっても、極めて低額の慰謝料程度では実効性が乏しいので、みなし損害額などを定める必要があろう。
 第十八についても同様であろう。
 なお、刑罰による担保についての考え方が不明である。

第十三について

 同意を得る際に、知る権利について文書にて十分に説明すべきである。
 第十四、第十五についても同様。

第十四について


 第1項で「主治医」が出てくるのは唐突な感じを受ける。主治医経由で試料が提供された場合に関してのことかと思うが、そもそも前提として、研究者と主治医との間での試料や情報の移動の関係なども明確にされておく必要があろう。これは研究と臨床(診断・治療)とが完全に切り離せない場合がありうることを反映しているのであろうが、研究に関する基本原則を作る場合でも、ある程度臨床の場に踏み込んだ規定を作らないと実効性が欠けることになりかねない。


 第2項の「予防または治療が可能なものである」との判断は簡単ではないし、時点により流動する面もあると思われる。この案の趣旨としては「予防または治療の可能性があると認められるときは」という表現になろうか。
 第十五についても同様。

第十五について


 第2項は、提供者本人の意思に沿わない開示であるので、第十四の第2項の要件よりも厳しくするべきではないか。例えば、一定の重要な疾患に限定することも考えられる。


 血縁者が未成年の場合は伝達は制限される必要があろう。


 血縁者の範囲は広いが、限定する必要があるのではないか。

第十七について

 解説の中で述べられているように、報奨金などの利益措置によって検体(研究試料)の提供を誘導するのは好ましくない。また、研究の成果が知的所有権等の対象になる場合に、検体提供の事実のみではそうした知的所有権を提供者が主張できないとするのは妥当であろう。しかし、研究のために提供された検体の所有権が検体提供者に帰属するとみられる場合においては、その検体から研究者が得たデータは他人の所有物から派生した果実なのだから検体提供者の所有権に服すると見ることも可能である。したがって、検体より得られたデータの使用について検体提供者に全く発言権を認めないというのでなく、場合によっては検体の所有権に基づいて異議を申立てる何らかの道を残しておくべきであろう。

第二十四について

 第1項は「ヒトゲノム研究が人類・・・に大きく貢献するものである」として、ゲノム研究の有用性を明記しているが、有用か否かについては議論の余地もあるだろう。「貢献するものでなければならない」なら理解できるが、有用性を基本原則で断言している本条項は極めて唐突な印象を与える。
 第2項についても同様である。社会はゲノム研究の有用性を認めるべき、と言われているような印象がある。個人の自由な同意不同意決定の妨げになりはしないか。
 基本原則としては、研究者が社会への説明責任を負う(第3項)ことを端的に述べれば十分であろう。



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