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2004年6月15日(火)

厚生労働大臣 坂口 力 殿

厚生科学審議会科学技術部会 ヒト幹細胞を用いた臨床研究の在り方に関する専門委員会
 中畑龍俊委員長殿

厚生労働省健康局疾病対策課 藤井充課長殿、井内担当官殿

           (財)先端医療振興財団 臨床研究情報センター臨床試験運営部長
             京都大学医学部付属病院探索医療センター探索医療検証部教授
                   福島 雅典

拝 啓

厚生科学審議会科学技術部会「ヒト幹細胞を用いた臨床研究の在り方に関する専門委員会」における審議内容についての意見、および参考資料を下記のように提出いたします。
 2004年6月17日に開催される同審議会において、委員各位に配布され、検討いただけるようお願い致します。

                     敬 具

1)厚生科学審議会科学技術部会「ヒト幹細胞を用いた臨床研究の在り方に関する専門委員会」における審議内容についての意見
2)日本経済新聞(2004.4.3)胎児にも人格、米で連邦法成立 記事コピー
3)Nature 424:987, 2003, 28 August掲載記事
4)2004年4月3日開催シンポジウム「再生医療の医学的評価」より福島雅典講義内容採録
5)TAPS 臨床試験評価手順スケール J. Levine (NIH)
6)同シンポジウムより、質疑応答部分採録
7)トランスレーショナルリサーチ実施にあたっての共通倫理審査指針 東大医科研、名大、京大、阪大、九大、(財)先端医療センター・臨床研究情報センターの5大学1研究機関による
注意:6)については、公開の場での討議であるが、採録につき他の発言者の校閲を経ていないため、厚生労働大臣殿、健康局疾病対策課長殿、および貴審議会委員・担当官においてのみの閲覧とされたい。他の資料については、報道関係者・審議会傍聴者への公開を希望する。
  以上

CC:
文部科学省研究振興局 ライフサイエンス課生命倫理・安全対策室
 課長 戸谷 一夫 殿
 室長 安藤 慶明 殿
 担当 鈴木 優香 殿

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2004年6月15日(火)

厚生労働大臣 坂口 力 殿
厚生科学審議会科学技術部会 ヒト幹細胞を用いた臨床研究の在り方に関する専門委員会
  中畑龍俊委員長殿
厚生労働省健康局疾病対策課 藤井充課長殿、井内担当官殿

             臨床研究情報センター臨床試験運営部長
            京都大学医学部付属病院探索医療センター探索医療検証部教授
           福島 雅典

 中絶された胎児の細胞を用いる臨床研究について、貴委員会で容認の方向が示されたと報道されていますが、このような倫理的に許容し難い研究を、科学的側面について水準の低い議論しか行なわずに認めるということは、世界に恥ずべきことです。貴委員会に対する意見を、以下のように表明いたします。

−意 見−

 再生医学を視野において胎児細胞・組織を新たに採取して行なう研究についての、貴委員会における判断は、「容認しない」ものとすることを求める 。
 このような倫理的に重大な問題をはらむ事項は、法律で禁止を検討すべき問題であると考える。
 臨床研究情報センターにおいては、中絶された胎児の細胞・組織を用いる研究は一切支援しないことを、当機関における合意事項としたので、周知されたい。

−理 由−

1.胎内で生きている胎児について、中絶を意図した女性が、他者の治療研究を目的とした利用を認める「インフォームド・コンセント」を与えるということ自体が、非倫理的である。明らかに意識と痛覚を持つ存在としての胎児をいかに認識すべきかという哲学的課題に、人類はまだ答えを見出すことができていない。中絶後も、再生医学研究においては、細胞・組織が新鮮な状態で採取することが求められる。「すでに死亡しており不要であるから」という詭弁による正当化は、倫理的に許されない。「厳格な管理体制のもと実施」という正当化も詭弁である。「厳格な体制」とともに「有用性」が示唆されれば、闇取引は助長され、海外渡航治療もさらに誘発される可能性がある。

2.世界の最先端の神経移植研究者らは、パーキンソン病治療についての二つのランダム化比較試験において胎児脳組織移植の効果に有意差が示されず、制御困難な副作用が認められたことを受けて、胎児細胞を扱う臨床研究は暫くの間行なわず、実験室での研究に集中すべきであるとのコンセンサスに達している 。こうした世界的な議論や臨床研究論文の評価をする能力のある人間が審議会には一人もおらず、Freedらの報告における「60歳以下に有効性が認められた」という、僅か21症例のサブセット解析の解釈のみが流布する状況は、世界に恥ずべきである。そもそもサブセット解析の結果は、仮説としての意義しかなく、とうてい有効性の証拠とはならない。これは、科学的常識である。スウェーデンの研究グループによる著効例報告には再現性がなく、脳の特定部位の何らかの刺激による一時的反応である可能性が否定できない。このように臨床研究、臨床試験論文について正当な科学的評価をできる人間が貴審議会にいないのであれば、実験室研究すら、再生医学を視野に入れた研究については、容認する根拠はない。

3.2001年の旧科学技術会議生命倫理委員会報告書 では、胎児のEG細胞(始原生殖細胞)の利用を、中絶の問題を理由に「当分の間使わないものとする」とされた。しかし、貴委員会では、この報告書が参照されず、報告書に至る議論の議事録のみが事務局より提出され、「当分の間使わない」という判断はなかったものとして審議が行なわれている。このような事務局の対応は不正行為である。上記旧科学技術会議委員会報告書の線を維持することを貴委員会の結論とするよう求める。

4.各大学および研究機関の倫理審査委員会の質はまちまちであり、しばしばその審査レベルは、科学的にみても高度な臨床研究・臨床試験を行うには余りにも低い現状であり、憂慮に耐えない。そのために厚労省による「臨床研究に関わる倫理指針」を補うものとしてトランスレーショナルリサーチ(TR)を推進する東大医科研、名大、京大、阪大、九大、(財)先端医療センター・臨床研究情報センターのTR担当責任者が集まって討議し合意の上、共通の審査指針を作成した。同指針は本年4月1日より発効している。脆弱な科学・倫理基盤の現状を放置したままこのような研究をすすめて国民の不信を招くようなことがあってはならない。

参考文献・注

 他者の治療を目的とする再生医学研究は、病理解剖・産科学・発生学等の領域における研究とは峻別すべきである。また、新たな採取を行なわず既存の細胞を用いる研究については、容認しうる条件について検討する余地がある。

Freed CR, Greene PE, Breeze RE, et al. Transplantation of embryonic dopamine neurons for severe Parkinsonユs disease. The New England Journal of Medicine 2001; 344: 710-9.

Olanow CW, Goetz CG, Kordower JH, et al. A double-blind controlled trial of bilateral fetal nigral transplantation in Parkinson's disease. Ann of Neurology. 2003; 54: 403-14.

Chieck E. Fetal tissue trial raises stem cell questions: Parkinson's transplant therapy faces setback. Nature 424:987 2003, 28 August. https://www.nature.com/nsu/030825/030825-4.html

科学技術会議生命倫理委員会ヒト胚研究小委員会「ヒト胚性幹細胞を中心としたヒト胚研究に関する基本的考え方(平成12年3月6日)」https://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/seimei/2001/es/010901o.pdf なお、厚生科学審議会科学技術部会ヒト幹細胞を用いた臨床研究の在り方に関する専門委員会(第5回 平成14年8月2日)においては、ヒト胚小委員会の議事録(第8回、第14回)が資料として提出されている。