webzine 医療改善のために
第1号(2001年5月31日発行)

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<特集 なぜ患者の権利が基本か>

医者にとっての患者の権利

高田 宗明(医師)
(2001.05.28)






1.はじめに

 医者の中には、さまざまな思い違いや偏見から『権利』という言葉を極端に嫌う人がいます。そうした方々は、まず、「社会生活・医療と権利<https://www.mi-net.org/lisbon/kenri_1.html>」をお読み下さい。そして、医者が医業を続けていくために自らの権利(法律によって賦与された資格)を最大限に使っている現実を知って頂き、『権利』という言葉に対するネガティブなイメージを、まず、払拭して頂きたいと思います。
 通常、『患者の権利』といえば、医者ならすぐに「リスボン宣言<https://www.mi-net.org/lisbon/D_Lisbon_j.html>」が思い浮かぶはずです。MIネットでは、その宣言の重要性を鑑み、「リスボン宣言の尊重宣言のすすめ<https://www.mi-net.org/lisbon/index.html>」に取り組んでいます。今回、このリスボン宣言の一番はじめに書かれている「良質な医療を受ける権利」を取り上げて、医者にとっての患者の権利の意味を考えてみることにいたします。

2.医者からみた『患者の権利(良質な医療を受ける権利)』とその問題点

 そもそも、医者の使命は患者に良い医療を提供するということにあります。この使命感がある限り、《主治医の主観としての》良質な医療が惜しみなく患者に提供されます。手術のような技術が関係すると上手い下手があり最良といえないかも知れませんが、決して故意に下手をする医者はいないはずです。従って、《主治医の目から見れば》、常に、良質な医療を提供していることになります。
 しかし、ここには二つの大きな問題点があります。第一は、主治医の知識が「標準的な医療レベル」であるかどうかです。ひょっとすると、一昔前の知識のままで診療している医者が居るかもしれません。
 第二に、主治医が考える良質な医療と患者が考える良質な医療とが同じであるか、という問題です。最近では最先端の医療が患者の倫理観に反する事例もあります。良く知られているのは「エホバの証人」への輸血治療です。通常は良質な(標準的な)医療であるにも関わらず、彼らにとっては最悪の治療法なのです。

3.『患者の権利(良質な医療を受ける権利)』に対する医者の義務?

 では、「良質な医療を受ける権利」を尊重するために、医者はどうすべきでしょうか?
 第一の問題点は品質保証の問題です。EBM(*1)や医療の標準化が役立つかも知れません。また、自らの医療に関する質情報(専門や成績など)を進んで公開することも今後の課題と言えるでしょう。
 第二の問題点に自己決定と自己責任の問題です。インフォームドコンセント(*2)セカンドオピニオン(*3)といった基本的権利を践んだ上で患者自身に最終的な選択権を与えることが、医者としての義務を果たすことになるのではないでしょうか。

4.医者にとっての『患者の権利』

 前述の自己決定にはそれに見合う自己責任が伴いますが、現代社会の価値観の多様性は、こうした自己決定の考えを支持してくれるように思います。そしてまた、患者の自己決定はその人の『自律』を促します。古いパターナリズム医療は盲目的・一方的な信頼(従属)を前提としましたが、現代の医療はお互いに人間として尊敬し信頼しあう関係を理想とします。その理想的な患者医者関係を築くために、この『自律』は重要な要素と考えます。
 患者と医者のコミュニケーションの重要性は今更の感ですが、未だにコミュニケーション不足によるトラブルが耐えません。その原因として、コミュニケーション以前の、個々の医師(医療機関)が権利を尊重するポリシーを持っているかどうかが関係していると思います。相手(患者-医者)の尊厳を認め、尊重し、お互いに自律した人間として向き合う姿勢が重要です。嘘のない関係(情報公開)や相手の決定/選択の尊重(自己決定権)、秘密保持(プライバシー保護)などの『患者の権利』の尊重は、非常に重要な根本に関わる要素であり、このポリシーがあって初めて患者と医者の良好なコミュニケーションや信頼関係が得られるのではないかと考えます。

5.おわりに

 医療事故防止の観点からも、患者の権利の尊重は非常に重要な要素の一つであると思います。しかしこれらは、他の方々が別の稿で述べるものと考え、ここでは取り上げませんでした。その代わり、「人間関係から見た権利の尊重の重要性」をから「医者にとっての患者の権利」を突き詰めていくと、「患者の自己決定権の尊重から自律、そして理想的コミュニケーションへの道」が見えてきました。今後は、患者と医者がお互いに信頼しあえる関係を築くために、患者の権利宣言尊重のポリシーを公開する医療機関が増えることを願って、webzine 創刊号のお祝いの稿とさせて頂きます。


【参考文献】

(*1)Evidence-Based Medicineの紹介:日本大学医学部公衆衛生学教室
https://www.med.nihon-u.ac.jp/department/public_health/ebm/index.html

(*2)インフォームド・コンセントの法理の形成過程: 森川功(ジョージタウン大学ケネディ倫理研究所客員研究員)
https://kenko.human.waseda.ac.jp/rihito/informed-j.html

(*3)セカンド・オピニオン(別の医師の意見)――たずねる理由、たずね る時期、たずねる相手 :撫子なんちゃん訳、MEDOC project.
https://www.marrow.or.jp/medoc/steve/second_opinion.html