webzine 医療改善のために
第4号(2002年2月28日発行)
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<判例紹介>

持続硬膜外ブロックによりMRSAに感染させた責任が認められた裁判例
(大阪地方裁判所堺支部平成13年12月19日判決)

岩本 朗(弁護士)

1.事案の概要

 本件は、原告(患者)Xが、持続硬膜外ブロックによる治療を受けるため、被告医療法人Yの設置・運営する総合病院に入院中、同病院の医師や看護婦がMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)の感染防止義務を怠ったため、硬膜外腫瘍を発生し、第3ないし第5腰椎の椎弓切除術、ヘルニア摘出術及び持続洗浄術を受けざるをえなくなったことについて、被告Y及び椎弓切除術の執刀医Zを相手取って訴訟を提起したものです。

2.原告・被告の主張

 原告は、被告らに対する請求の原因として、MRSA感染防止義務違反と椎弓切除術におけるインフォームドコンセントが欠けていたことの2つを主張していましたが、後者の点は認められませんでしたので、詳しい説明は省略します。
 MRSA感染について、原告のMRSA感染は、平成7年1月9日に硬膜外カテーテル刺入部に膿が少量存在することが確認され、カテーテルを抜去したこと、同月14日のカテーテル先端の培養の結果、MRSAが検出されたことから、硬膜外カテーテルを経由して発生したものである、と主張しました。
 そして、硬膜外カテーテルに接続された持続注入器の使用方法が取扱説明書において1回限りの使用の後、廃棄されなければならないとされているにもかかわらず、6回もの再使用を繰り返したことにより、滅菌が不十分になり、感染が発生したものである、と主張しました。
被告は、MRSAは非常にありふれた菌であり、Xへの感染経路は不明である、特にXは、医師の指示した以外の薬剤を勝手に経口服用あるいは自己注射していることからすると、Xの作為により感染が発生した可能性も否定できない、と主張しました。
 また、持続注入器は、臨床的には1週間から2週間程度の間で再度使用されており、これが感染の原因になったとは考えられない、と主張しました。

3.裁判所の判断

 被告にMRSA感染防止義務を認め、原告の請求を認容しました。具体的な判断は以下のとおりです。

(1)MRSAの感染経路

 「脊椎硬膜外膿瘍における、硬膜外控への病原菌の侵入経路については、 ア、硬膜外ブロック施行時の汚染、イ、薬液注入時のカテーテル内控からの汚染、ウ、カテーテル外側周囲からの汚染、エ、近隣感染巣からの波及、オ、他の感染巣からの血行性播種が考えられている。」
「平成6年12月12日にカテーテルを留置してから、平成7年1月8日に硬膜外膿瘍の症状であると思われる発熱が認められるまで27日間が経過していること、A医師や看護婦が適切な方法により頻回に刺入部を消毒していること、硬膜外膿瘍の発症部位の近隣に感染巣が認められないことに加え、平成7年1月9日の細菌培養検査の結果、同月14日に至ってカテーテル先端部からMRSAが検出されたことが明らかとなったこと、被告Zが硬膜外カテーテルが原因である可能性が8割程度である旨述べていることをも併せ検討すると、イ、薬液注入時のカテーテル内控からの汚染が本件におけるMRSAの侵入経路であると推認するのが相当である。」
として、カテーテル内控からの感染説を採用しました。

(2)MRSAの感染原因

「平成6年12月27日から平成7年1月7日までの間、バクスター・インフューザーに薬液が再充填され、繰り返し使用されていたところ、バクスター・インフューザーの取扱説明書によれば、「警告」として、再充填・再滅菌は行わず、1回限りの使用の後、廃棄する旨の記載があり、「警告」の記載の趣旨が、バクスター・インフューザーが使い捨て用の製品であり、2回目以降の使用に対する性能及び品質の保証をしかねるとともに、再充填、再滅菌に際して細菌感染等の汚染の可能性もあることからすると、バクスター・インフューザーを繰り返し使用したことがMRSAの感染原因の可能性が高いというべきである」としました。

(3)感染防止義務違反

 バクスター・インフューザーの取扱説明書の「警告」の記載及びその趣旨から、これを再充填して繰り返し使用した「被告病院の医師及び看護婦によるバクスター・インフューザーの用法は、適正を欠くものであって、感染防止義務に違反するものと認めるのが相当である」としました。
 さらに、多くの施設で使い捨て用医療器具の再使用がなされているとする被告の主張及び被告提出の私的鑑定意見に対しては、「仮に、実態として多くの医療機関で再使用がなされていたとしても、人の生命・身体・健康を扱うという医療機関の特質に照らせば、医療機器の取扱説明書に準拠した適切な使用がなされてしかるべきである。したがって、かかる実態が存在するからといって、被告病院の医師らが感染防止義務を免れることはできない」としてその主張を排斥しました。

4.本判決の意義について

 本判決に対しては、原告・被告双方とも控訴せず、判決が確定しました。
 MRSA感染をめぐる医療過誤訴訟は近時多数提訴されていますが、MRSA感染を引き起こしたことそのものについて医療機関側の責任が認められた事例は少数にとどまっています。
 本件と類似の事例として、帯状疱疹に対してカテーテルを挿入・留置する持続硬膜外麻酔法後に硬膜外膿瘍を発症したことについて、担当医に、カテーテル挿入部位の皮膚管理が不十分で細菌感染を招いた過失があったとされた事例(高松地裁平成8年4月22日判決・判例タイムズ939号217頁以下)がありますが、本件は、この事例と比較して、@カテーテル内控からの感染を認定したこと、A使い捨ての持続注入器の繰り返し使用が感染発生の原因であり、かつ繰り返し使用について注意義務違反を認めたこと、に特色があるといえるでしょう。
 後者の点について、原告は、医薬品の添付文書に関する最高裁判決(最高裁平成8年1月23日判決・民集50巻1号1頁)を引用して、取扱説明書に従う義務がある旨主張したところであり、判決文中に上記最高裁判決への言及はないものの、これに従って判断したものと考えられます。
使い捨ての医療器具の再使用は、主として経済的な理由から、広く行われている実態があるようですが、これにより院内感染を引き起こした場合、医療機関は法的な責任を問われる可能性が高いことを認識すべきでしょう。