webzine 医療改善のために
第4号(2002年2月28日発行)
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<判例紹介>

日本医大救急救命センターにおける手術で、骨髄炎に罹患させた責任が認められた例
(東京地裁平成13年10月31日判決)

安原 幸彦(弁護士)

1.事案の概要

 患者(原告)は、1991(平成3)年6月26日、自家用車を運転中に自動車事故にあい、右大腿骨骨折(非開放性)、右下腿骨骨折(非開放性)、左下腿骨骨折(開放性)、等の傷害を負い、救急車で病院(被告)の救急救命センターに運ばれ入院をした。

 7月2日、左下腿骨開放性骨折に感染が認められ、発熱があった。7月3日は、左下腿骨骨折部から膿の排出があり、発赤、腫脹、発熱が見られ、CRP値が上昇し、炎症反応があることが判明した。翌4日には、手術予定直前の午後4時ころ「左下肢熱発発赤あり」との診断がされ、左下肢に細菌が感染していると見られた。ところが、7月1日に救急救命センターに赴任し、4日手術を担当した医師は、同日、右大腿骨について予定通り、逆行性のキュンチャー髄内釘内固定術による手術をおこなった。

 患者は、7月19日、右大腿骨手術創部より膿が排出され、同部に骨髄炎発症が認められ、7月24日には右大腿部の創部からMRSAが検出され、7月25日にはキュンチャー上部とろう孔に交通があることが確認された。

 患者は、1993年9月27日、右膝関節機能全廃、右足関節機能全廃で東京都の身体障害三級の認定を受けた。右足は左足に比べ約11センチ短縮してしまった。

2.判決内容

 争点は[1]本件手術とMRSAの感染及び後遺障害との間の因果関係の有無、[2]本件手術についての被告病院の医師の過失の有無、であった。
 [1]の因果関係について判決は、本件手術が、骨折部を切開して固定する術式であったこと、左下腿部に感染したMRSAが血行性に右大腿部に移行した可能性が高いことから、いずれにしても、本件手術とMRSAの感染との間には因果関係があると認定した。また、後遺障害については、患者が病院に搬送された時既に両脛腓骨遠位端粉咳砕骨折と診断されていたことから、右下肢機能全廃については認めなかったものの、右下肢11センチメートルの短縮、右膝関節の著しい機能障害について因果関係を認めた。
 [2]の過失については、侵襲の大きい逆行性打釘法の術式を選択したことは当時の骨折状況からすればやむを得なかったとして過失を認めなかった。

 しかし、病院は本件右大腿骨骨折の治療について、「患者がMRSA等の細菌に感染し、骨髄炎に罹患することを未然に防止すべく、手術を実施すべき時期等の判断において細心の注意を払い、治療に当たるべき注意義務があった」が、MRSAの感染の危険性が極めて高い時期に手術をし、この注意義務に違反したとして病院の過失を認めた。

 損害の認容金額は、60,959,180円であった。