webzine 医療改善のために
第5号(2002年5月31日発行)

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訴訟の費用について

                   松井健二(弁護士)

1 民事訴訟の費用

   医療訴訟も民事訴訟のひとつで,貸金返還請求や離婚請求などと同様に
  地方裁判所又は簡易裁判所に訴状を提出することから始まる一連の手続で
  す。
   この民事訴訟の費用としては,大きく分けると弁護士費用と実費の二つ
  があります。
   第1に,弁護士費用については,全弁護士が強制的に加入させられてい
  る日本弁護士連合会というところが,「報酬等基準規定」(平成7年9月
  11日会規第38号)により,報酬の標準的な基準を示しています。
   これによれば,民事訴訟の弁護士費用としては,さらに次の2種類があ
  ります。なお,証人尋問等で遠隔地に赴く際の日当などの弁護士費用が別
  途必要になるケースもあります。

   着手金=委任事務処理の結果にかかわらず,受任時に受けるべき対価
       事件の経済的利益の額(請求金額)を基準として算定
   報酬金=委任事務処理の成功の程度に応じて受ける対価
       確保した経済的利益の額(認容額)を基準として算定

  例)医療訴訟で1000万円を請求したところ,700万円支払えとの
    判決が確定した場合,次のとおり,合計147万円の弁護士費用と
    なります。
    着手金=1000万円× 5%+ 9万円=59万円
    報酬金= 700万円×10%+18万円=88万円

   第2に,訴訟を弁護士に委任せず自分自身で追行する場合(本人訴訟と
  言います。)でも要する実費として,訴状に貼る印紙,被告に送達するた
  めの郵便費用,証人を申請した場合の証人用の旅費日当,鑑定を申請した
  場合の鑑定費用などが必要となります。

  例)前記1000万円の請求の場合,印紙代は5万7600円と定まっ
    ています。郵便費用は被告が1名なら7000円です。
    証人の旅費日当は出頭距離などに応じて所定の金額が必要ですし,
    鑑定費用は相当額で裁判所が決定します。証人一人1万円前後のケ
    ース,医師の鑑定費用30〜50万円程度のケースもありました。

   この実費には,これらの裁判所に納付する費用の外に,被告病院の法人
  登記の資格証明書や,診断書,医学文献などの費用や,書類のコピー代な
  どもケースに応じて数万円単位で必要となります。

   訴訟に移行することが決定してからの費用に関してはおよその見通しが
  立ちますので,依頼をしている弁護士から十分な説明をしてもらって下さ
  い。先ほどの報酬規程においても,報酬等について十分説明しなければな
  らないと定めていますし,依頼者から求めがあるときは説明書を交付しな
  ければならないとされています。委任契約書も作成の努力義務を定めてい
  ます。

2 証拠保全の費用

   医療訴訟が通常の訴訟と異なる重要なポイントとして,被告の過失や診
  療義務の不履行を原告が立証しなければいけないのに,そのための資料の
  殆ど全てが被告側に保管されていることです。
   特に,医療訴訟追行のためにカルテや看護記録などの診療録は不可欠で
  す。
   このカルテ等の資料は,民事訴訟の段階に至れば,被告である医療機関
  側が提出してきます。しかし,これら資料が訴訟になってから提出される
  場合,医療機関側で改竄される可能性があります。現に改竄が判決で認定
  されているケースもあります。従って,訴訟提起する前に改竄をできない
  状況で(予告なしに),カルテ等のコピーを入手するのがベストなので
  す。

   そのための手続として,裁判所の決定で強制的に証拠保全する方法があ
  ります。
   この証拠保全手続の費用についても,前記民事訴訟の費用と同様に,弁
  護士費用(この場合手数料と呼ばれます)と実費が必要となります。
   手数料=20万円+民事訴訟の着手金の10%

   実費としては,書類の写し,コピーの費用が主ですが,病院のコピー機
  を必ず借りられるとは限らず,電気も使わせない等の対応をされるケース
  もあり,また,レントゲンフィルムについてはコピーの費用が少し嵩みま
  すし,カメラマンを同行する必要のあるケースもあったりして一概に言え
  ませんが,数万円から数十万円かかることも有るようです。

   この場合の費用についても,弁護士に概算額の説明を求めるのが一番で
  しょう。

3 カルテの調査・協力医の意見収集の費用

   前記の証拠保全や診療情報開示請求,弁護士法による照会制度等でカル
  テ等を入手したら,次は,そのカルテの解読とカルテを元にして専門医の
  意見を聞く作業を行なうのがベストです。全ての場合にカルテの翻訳が必
  要ではありませんし,また専門医が見つからないこともあるでしょうから,
  弁護士の意見なども参考にしながら,ケースバイケースで考えるとよいで
  しょう。
   しかし,これらの準備をしておくことは,訴訟提起をするか否かを決定
  するための重要なポイントとなることもありますので,費用と時間が許せ
  ば是非やっておきたい手続です。

   費用としては,翻訳料が1頁500円〜1000円(但し,医療事故情
  報センターH13.5)程度,協力医については面談1回5万円〜10万
  円,顕名の鑑定意見書20万円〜40万円(医療事故調査会H11.6)
  が必要です。

4 法律扶助

   医療訴訟の弁護士費用等を法律扶助協会という団体が立て替えてくれる
  制度もあります。詳しくは,
  (財)法律扶助協会のホームページ https://www.jlaa.or.jp/
  で確認されるか,各地の弁護士会や弁護士に相談してみて下さい,

   別途協会への申込が必要であったり,全ての費用が立て替えてもらえる
  わけではないなどの制約がありますが,弁護士費用が直ぐに支払えないと
  いう理由だけで訴訟を断念しないで下さい。

5 弁護士費用の負担

 イ 原告(患者)自身が依頼した弁護士の費用
    少なくとも現時点においては(H14.5),実際に弁護士に支払っ
   た弁護士費用は,自分の負担ですが,原告の請求が全部又は一部認容さ
   れた場合には,その認容額の1割程度を本来の損害額とは別に損害とし
   て認めてくれているのが,裁判の実情です。

  例)逸失利益700万円
    慰謝料 300万円
    の損害が発生しているケースでは,
    通常,本来の損害額である1000万円の1割である100万円を
    損害として加算し,1100万円を請求します。
    これに対し,裁判所が本来の損害として
    逸失利益500万円
    慰謝料 200万円
    と認定した場合,
    弁護士費用としては70万円を加算して,結局770万円を認容し
    てくれるということです。

 ウ 被告(医療機関)側が依頼した弁護士の費用
    少なくとも現時点においては,原告患者側が敗訴した場合においても
   これを原告に負担させることにはなっていません。
    しかし,弁護士費用の敗訴者負担制度を一部導入する動きがあり,医
   療訴訟において,訴訟提起を断念させる方向となるため,強い批判があ
   ります。

6 最後に

  上記の費用の説明は,わかりやすくするため,典型的なケースを想定し
 ており,様々なケース別の説明を省略しています。従って,不十分な説明
 となっている部分がありますので,あくまで1つの参考としてご活用下さ
 い。

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