エイズAIDS(後天的免疫不全症候群)は、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染したために身体の免疫機能が損なわれ、通常は身体に害を及ぼさない各種のウイルスや細菌、真菌などに感染する(日和見感染)ことによって身体機能が低下し、やがては死に至る病気である。
主な感染経路は、同性・異性との性的接触であるが、HIV感染者の母親からの出産時あるいは母乳を介しての感染や、注射針からの感染も存在する。しかし、通常の日常生活においては、感染の可能性はほとんどない。
今日ではHIVの活動を抑える各種の薬剤が開発され、また日和見感染の原因を個別に押さえ込むことが一部できるようになったために、HIV感染後およびAIDS発症後の生存期間は顕著に延びている。しかし、まだHIVを克服するにはいたっていない。また、世界的にはアフリカおよびアジア諸国の大流行が各国の社会に大きな影響を与えてまた、日本でも若年層の感染の増大が報告されている。
日本では、USAで問題になった同性間の性交渉や麻薬の回しうちによる感染はほとんどなかったが、血液製剤を介しての感染被害が多数にのぼった。すなわち、主に血友病の患者が出血を止めるあるいは予防するための特効薬として用いられた血液製剤(非加熱製剤)のなかにHIVが含まれていたために、全血友病患者の約4割にあたる1800人がHIVに感染し、うち約400人以上がすでに死亡しているといわれる。
血液製剤を介した薬害エイズは、サリドマイドやキノホルム中毒(スモン)、薬害ヤコブ病と同様に、国や製薬企業が適切な対策をとらなかったために拡大した。1人ないし2人分の国内産血液からつくるクリオ製剤を用いる、非加熱製剤を速やかに回収し加熱製剤に切り替える、などの対策を早期にとっていれば、HIV感染の拡大は防ぐことができたのである。ところが、数千人の血液を混ぜ合わせてつくる非加熱血液製剤の危険性がUSAで明らかになってからも、医師はその危険性を患者に告知せず、製薬企業も漫然と輸入と販売を続け、厚生省はなんの対策もとらなかった。
そもそも日本は、人口に比べて世界の血液製剤消費に占める割合が高く、安易にこれを消費する傾向があった。その結果として、血友病だけでなく各種の病気や手術後の出血予防に血液製剤を投与し、HIV感染被害を出すことになったのでである(いわゆる感染の「第四ルート」)。
医師が感染を患者に告知しなかったために、患者の配偶者などに二次感染が生じたことも大きな問題であった。
加えて、エイズはその症状がきわめて激しく、当初は感染して数年以内に死亡することが多かったために、HIV感染者たちは厳しい差別にさらされることになった。
薬害エイズの被害者たちは、前記の薬害被害者と同様に、この国の薬害を生む構造の被害者なのであり、被害のつど「薬害根絶」が叫ばれながらこのような大きな被害をもたらしたことに、日本の薬事行政や製薬産業、そして日本社会の構造的な問題が表れているといえよう。
この結果、薬害エイズは、薬害として始めて血友病の専門医や厚生省の責任者、および企業の経営者が刑事責任を問われる事件になったのである。
(文責・栗岡)